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新国立劇場でリゴレット。暗い舞台だけに、スパラフチーレが闇に溶け込む退場の仕方が素晴らしい。
というか、これも実に良いリゴレットで何も言うことはない。合唱のうまさは当然良いし、ブラウンリーは1幕こそ(フローレスもそうだったが)ベルカント歌手のマトヴァ公ってなんか違うんだよなぁと思わせたものの、どんどん、あれ? これは素晴らしいマントヴァ公ではないかと印象が変わり、中村のジルダは最初から最後まで実にジルダで、海外から主演を招聘しなくとも全然OKではないかと思い、ストヤノフのリゴレットは文句なく、指揮のカッレガーリ(カリガリ博士?)の指揮っぷりも実にスリリング(危なっかしいという悪い意味ではなく、音の躍動感やメリハリが実に効いていて、次はどうなるという期待感がすごい)で、とても満足だ。
意表を突かれたのが、完全な脇役でどうでも良さそうなマルッロ(成田という人)がひときわ目立つ美声で、えらく良い。マルッロが歌うと舞台が輝く不可思議さも味わった。
東劇でヨンチェヴァとベチャワのアノドレアシェニエ。抜群だった。指揮、歌手、演出はメトだからのコスプレであまり好きではないとはいえ、とても良かった。
何しろおれが一番好きなオペラでもある。
中学~高校の頃、NHKイタリアオペラのテバルディとデルモナコのライブ盤を買って死ぬほど聴きまくった。で、当時のLPだから対訳がついていたから大体の会話は覚えているはずだった。
が、今回、映画ならではの字幕を見ていて、相当記憶違いがある(か、当時の対訳が間違っていたか)に気付いた。
一番大きいのはラママモルタの私は愛! 私は神!の「私」 はマッダレーナのことではなく、マッダレーナに語り掛けた光のことだった(もちろん、その光は内的心理の外形化だから、そういう意味ではマッダレーナ自身と言えなくもないが)。すると、母親が死んでひどいことになったけど、ベルシのおかげでどうにかやって来れた、その時にシェニエに再会して(と身の上話をしているうちに)興奮しまくって、ついには私は神! と叫ぶという狂気の愛の歌ではなくなってしまう……。
同じことは、ジェラールのパンテオーネの歌についても言える。おれは、告発状に、「裏切り者、反動軍の兵士、外国人……」とか書いているうちに、おれは一体何やってるんだ? おれは高い理想に燃えて人民のためにパンテオーネを打ち建てようとしているのに、なんと堕落してしまったことか! という歌だと思っていたが全然違う。
幕間のインタビューでゴロヴァテンコ(この人のジェラールは実に素晴らしい)が、ジェラールは微塵も反省、後悔なんかしていないよ! と言い切るので???となったのだが、この対訳では確かにそういう歌ではない。
裏切り者、反動軍の兵士、外国人、こういう連中と戦い、人民の涙を糧として、世界に愛のパンテオーネを打ち建てるのだ! 人民を抱きしめ接吻をするのだ! という歌だった(どちらにころんでもパンテオーネの件が美しいのは変わらないわけだが)。
したがって、内心忸怩たるジェラールが、私は愛なのです! と言い切るマッダレーナに押されてシェニエの弁護に走るというのではなく、恬として恥じることないジェラールが、やりたいならやりなさいよ、私はすべてを失って、ただあの人への愛だけが残っているのだから、全然OK! というマッダレーナの本気っぷりに打ちのめされてシェニエの弁護に走るという話になる。
いやー、まったく違う話ではないか。
とはいえ、この曲のすばらしさはまったく変わることはないわけだが。
最近のメトライブビューイングは、幕間に指揮者にピアノを弾かせながら聴きどころを紹介させるのだが、ルスティオーニの説明は聞いて良かった。
というのは、大空を見上げ言葉を引っ張り集めて(まるで、ファウスト博士が精霊を呼び集めて彼らの力を借りてメフィストフェレスを地底から引きずり出すみたいな)詩を作り出すという説明や、裁判の場面で罪状否認もそこそこに、舟歌に変わる、それは大海原を船で航海するからだという説明は目からうろこ。舟歌とは! で、確かにバルカローレだ。全然気づきもしなかった(というか、裁判での歌はまったく注目もしていなかった)。あるいは、ラママモルタを助けを求めるでも願いを言うでもなく、なんか自分のことを延々と喋るだけの妙な歌、という説明もうなずかざるを得ない。イリッカの作詩術とジョルダーノのどんどん楽想を膨らませて大爆発させる作曲法が見事に絡み合って、この音楽史上の大傑作が生まれたのだな。
それにしても、1幕では居並ぶ貴族や僧侶が顔をそむけるカデット(立憲君主主義者)としてのシェニエの左っぷりが、共和制になったとたんにカデットとして極右(憲法下とはいえ王権を認めるわけだから)扱いされる、政治の相対性はおもしろい。おそらくイリッカとしては、蝸角の争いみたいな印象を持っているのかも知れない。
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