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NHK BSの録画のバイロイトのニュルンベルクのマイスタージンガーを観る。
ガッティの前奏曲はなんかどうでも良い(元々音楽そのものも単純で盛り上がりはするもののそれほどおもしろいわけではない)のだが、始まるや否や一変した。ガッティは主役ではなく歌手と歌手の演技が主役となり、その意味ではガッティのなんか腑抜けた指揮は悪くない。
今年のミュンヘンのラインゴールドもそうだったが、服は現代にしているが脚本そのものの読み替えはほとんど無い演出で、特長は長い階段を使った教会だなぁ(地上では楽士が演奏)と思いながら観ていると、まずヴァルターがとても良い。甘くはないが(どうしてもヴァルターというとフォークトを思い浮かべるからだ)柔らかい声でとても良い。当然のように始めよが素晴らしい。
が、まるで双子のように扮したベックメッサ―とザックスが登場したあたりから様子が変わる。
とにかくザックスの(テレビならではのアップが多いからだが)顔芸がすさまじい。すさまじい顔芸なのだがとってつけた感がないのは音楽と心情がぴったりしているからだ。
ザックスで圧倒的なのは2幕の最初でヴァルターの始めよのメロディーに合わせて心境を歌うところと、エヴァの前でヴァルターの3バース目を歌わせて褒め称えた直後の怒り爆発のところで、ザックスの複雑怪奇な心境が露わになるところ。ツェッペンフェルトは抜群だ。
最後、バイロイトのマイスタージンガーといえばカテリーナのザックスがヒトラーに早変わりするのが印象的だったが、あれともまた異なる。ザックスは淡々と歴史の重要性を説く。ヴァルターも説得される。
ここで一転、それまで花に埋もれて何も考えてい無さそうだったエヴァ(※)が主体性を発揮する。これは新しいかも。
※)2幕で駆け落ちの相談のあたりで、ザックスのヴァルターの歌に完全に惹かれているのだが、マイスターたちの心情も良くわかる悩みをまったく理解できずに、あの人は味方だというヴァルターに対してあんたの悪口を言っていたと放言するところが強調されているので、断絶を強調した演出とも言える。
素晴らしかった。
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