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日々の破片

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2021-02-26

_ 東京卍リベンジャーズ大人買い

東京卍リベンジャーズ、途中までコミックバンバンでチマチマ読んでいたが、あまりにおもしろいのでKindle大人買いして読みまくって最後まで来たら、まだ(少なくとも単行本では)完結していなくてお預け状態でがっかり。

映画もそうだが、おもしろい作品は、過去の記憶(実人生はもちろん、経験として取り入れた作品群についてでもある)を掘り起こす。

東京卍リベンジャーズは、現在をふらふら生きるボンクラ青年がかって好きだった女性が殺されたというニュースを見た後に、何かのはずみで自意識は現在のまま少年時代の自分に戻り、その女性が殺されるという現在を変えようと奮闘する話だが、実にうまい。

うまいのはルール設定(過去に戻れるのは常に現在からの相対過去なので、一度現在に戻ってから過去に戻ると、現在で経過した日数分、過去での時間も経過している(当然、その間に何が起きたかはわからないので、調査が必要となる)と、それだけではさすがに無理ゲーなので現在でのパートナーに殺された女性の弟で、過去の自分の言動に勇気づけられて警察に勤務しているため現在の各種情報にアクセスでき、かつ、改変前の現在についての記憶を主人公と共有する便利な存在を持って来ていることにある。

過去の話は基本的にフレームワークはケンカに強い奴が一番偉く、頭は悪いが情はあるみたいな不良マンガテンプレなのだが、各人の個性の色分けがうまいのと、割と平然と時間軸をぶった切って(と見えるがもちろん計算尽くなのだろう)現在に戻らせるので興趣を尽かせない。

しかも絵がうまいので暴力シーンの肉体の動きが美しくて読んでいて楽しい。

抜群だ。

不良のドつきあいマンガのフレームワークを使った人生やり直しモノでまず思い出す(要は印象深い作品ということだ)のは、どおくまんの「超人S氏の奮戦 ―花の2回目人生―」だ。こちらは、宝クジと株の仕手戦で稼いだ金を使って不良に勝つというマンガだが、大人の正義感から戻った中学時代にいじめの標的にされ(元の人生ではまったくかすりもしなかった世界に入ってしまい)、それを打破するために、現在に戻ったところで宝くじの当たり番号を購入(ここでいろいろ伏線が入る)し、株の仕手戦で勝利(というか結果を知っているのだから出来レースだが)して得た大金を使うという、子供に金の大事さを教えるマンガみたいなやつで、現在と過去の自意識の行き来という点では先駆的な作品と思う。

超人S氏の奮戦 ―花の2回目人生― (1)(どおくまん)

一方の東京卍は、過去の行動が常に戻った現在に影響しているので、因果関係の辻褄合わせの妙もあれば、より伏線が緻密になっていて、40年違うとここまで進化するのかと感じる(絵柄はまた別な話だ)。

東京卍は、Aという過去を過ごして現在のBに戻ると予想外の世界になっている。どうもAの後にXという問題が起きたようだ。ではXを解消するために過去A'に戻る。Xを解決すると現在のB'はしかしB時点の想定とは異なるものとなっている。どうもX'という問題がA'の後に起きたようだ。ではX'を解消するために……という繰り返しなのだが、時間軸は常に進んでいるために以前の結果が当然過去にも影響しているため、何が原因でどう変わったかを現在で考察して、その知見をもって過去に再介入するという物語構成が抜群だ(そもそもの女性の殺害の動機は途中で見えてしまうのだがそれは全然物語のおもしろさには影響しない)。

同じく不良マンガの人生やり直しものとしては、親父の自意識が息子に入り込んで人生やり直しを目指すCUFFSがあるが、こちらは子供のケンカに大人の自意識で勝利するという戦略が多少目をひくが、結局は単純にケンカをすれば心が通い、強ければ強いほど偉いという単純な不良マンガなので、相当に違う。というかCUFFSは同列ではないな。

東京卍は、敵なのか味方なのか最初の時点ではよくわからない不良のトップが小柄で可愛く、しかし腕っぷしは無茶苦茶に強く、その相棒がノッポでおっかない(でも良い奴)のだが、この組み合わせは、京四郎を思い出す。

京四郎 1 (少年チャンピオン・コミックス)(樋田和彦)

可愛いトップが実がおっかなくて、相棒ののっぽが無茶苦茶強くて無軌道なやつだが実は良い奴というのはそれなりに他でも見かけるが(例えばOUT)、キャラクタ作りのうまさでは東京卍と京四郎が双璧かも知れない(が、京四郎の場合は最後は敵に回るのだが、東京卍は最終巻を読んでいないからわからない)。

OUT 1 (ヤングチャンピオン・コミックス)(みずたまこと)

同じ作家の新宿スワンの場合は、最初は「ほー、キャバ、スカウト、ホストとかってこんな感じなのですか」みたいな興味で読んでいるうちに、徐々に暴力マンガのフレームワークを超えてダークファンタジーを繰り広げていたように、東京卍の場合も比較的単純な不良グループの抗争もののフレームワークを使いながら徐々に話の複雑度が増していくダークファンタジー(かなぁ?)となっていて、作者のストーリーテリングの才能(絵も抜群だが)は凄い。

東京卍リベンジャーズ(1) (週刊少年マガジンコミックス)(和久井健)

嘘喰いに引き続きおもしろいマンガが読めてラッキーだ)


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