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日々の破片

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2012-01-23

_ 新国立劇場のラ・ボエーム

良かった。幾つかの発見もあったし、何より普通に楽しめた。

・4幕のロドルフォとマルチェロが2人で回想にふけるところで歌が途切れるとソロでヴァイオリンが出てくるのだけど、まずそれに初めて気付いた。しかもそれが妙に浮いた(ヴァイオリンの弾き方はわからないのだが、ポルタメント気味なレガートということなのかなぁ)弾き方なのだが実に美しくて、おおこんなに美しい個所があったのか、と新鮮な驚きがあった(プッチーニにはトゥランドットにも3幕でリューが歌うところでソロヴァイオリンが妙に美しい旋律を奏でるところがあるが、歌とソロヴァイオリンのつなげ方が実にうまいと思う)。

La bohème (Puccini, Giacomo)(多分334ページのCalmoからの4小節分だと思う、というか、楽譜が読みたいときにすぐ読めるというのは実にありがたいことだなぁ。実は確認したくて帰りにカワイに寄ったのだが総譜は売って無くてあきらめたのだった)

・全体にオーケストラはとても良かった(東京交響楽団)。2幕の最初とか管の合奏だからなんか冷ややかに聴いていたら実に良い感じだった。

・テンポは全体にえらくゆっくりめな気がしたのだが(これは指揮者がそう決めたのだろうが)、その分、管弦楽がくっきりして、あらためてプッチーニのうまさというものが楽しめた。

・この演出は三演らしいが僕は初見だ。この演出は実に良い。多分、オーソドックスにオーソドックスで、ミミが積極的にロウソクを消したりとかは一切しないのだが、歌手をうまく動かしてまったく飽きさせない(歌と音楽だけではなく、位置関係で物語を補完するということなのだと思う)。2幕の奥行きを活かした演出も好きだ。最後、行進しながら奥へ進み、手前でアルチンドーロがドタバタしているのを尻目にするところとか、ムゼッタが馬車から降りて見得を切るところとか(建物がくるくる回転して、帽子屋になったりミュモスになったりするところとか、実に楽しい。打って変わって3幕では遠景にあった店がミミがマルツェロを待っている間に手前に来る(が、静謐感に変わりは無いところとか。ただ、4幕最後に雪が降るのはなんじゃらほいな感じがした(ずっと初夏のできごとだと思っていたからだけど、クリスマスイブに出会ったことを思い出したのか、それとも3幕での寒い季節では2人で過ごしたいと歌ったことを思い出させたかったのか、青い照明に変わる)。

・プログラムに演出家(粟國淳)の談がいつものように出ているのだが、今回のはまず、それがひと味違った。というのは、ああそうなのか、とそれまで気づきもしなかった点まで良く読み込んでいることが示されていたからだ。言われて、気付かなかったけどそういえばそこは確かに妙な引っかかりがあるなぁというのは、コッリーネがショナールに2人だけにしといてやろうと言うと、そこでコッリーネが劇中で初めて「哲学者」と呼ばれるという指摘。それだけでなく確かに4幕のショナールは奇妙な振る舞いが目立つのだが、そこに着目したのはおもしろい。どうにもショナールのことが気になったらしく、(これまで見たモノでも実はそういう演出、つまりト書きに書いてあるのかも知れないが、今回妙に目立ったのだが)ミミが寝台から手をだらりと下げているのをマフの中に入れてやろうとしたのか、寝相の問題だと思ったのか直してやろうとショナールが手にとって、その冷たさに驚いて死んでいることを悟るというシーンが実に印象的(ショナールの動かし方がうまい)。ショナールの動きが良いと、唐突にコッリーネがさらば外套を歌うというのも繋がりがでてくる道理となる。というわけで、有機的に人物が動く舞台となって、これが実に良かったのだった。

ショナールの不思議な動きと言えば、水を持って入ってきて(左から)、右半分に来かけて2人に気付いて左の奥へ引っ込むのだが、最後にマルツェロ(右から出て薬を買って右から戻ってきて、そのまま右にいる)のところへ行くときに、手前に廻らずに奥から回る(逆かも。忘れた)のが妙に不自然な流れで引っかかった(悪い意味ではない)。とにかく、人物の動きにいろいろ意味を持たせているのだろう。

・と、音楽が良くて、舞台が良くて、元の曲が良いのだから、つまらないわけがない。

・逆に歌手の印象がいまひとつ。ロドルフォを歌った韓国の人は淡々と良かった気がする。ミミもきれいだし、ムゼッタも楽しげだが、強烈な印象は受けなかった(が、そこがなんというか、普段着的な良さがあったのかも知れないというかラ・ボエームという演目に合っているというか、悪い印象はない)。

・ベッドを動かしてダンスのための広間を作り、さらにそのベッドを入り口付近に動かしてミミを寝かせる。

・ブノワが入ってくる前に、右側の扉の外に一人配置しているのだが、あれはどういう意図なのかなぁ。

・ほとんどの人たちが外にでるときは右の扉(1幕で3人が出て行くのもミミが入ってくるのも、4幕でムゼッタが入ってくるのも、ムゼッタとマルツェロが出入りするのも)なのだが、ブノワは左から入って左から出て行く。ショナールが水を汲みに行くのも左(コッリーネも左かな)。でも、3人に呼ばれてロドルフォが今一人じゃないんだ、と呼びかける窓は左。

・幕が開く前にその舞台を示す画がかかれた幕が見えるのだが、なんか良い感じだった。特に1幕はしばらく幕が下りたまま舞台で画をかいているマルツェロが見えるのだが、それが良い感じ。

・思い出したが、1幕ではテーブルで食事をしているのが、4幕では左側の広間(あるいはマルツェロの画室)と手前のリビングの間の段差に腰掛けて食事をしていたような。この段差はムゼッタがお祈りするのにも利用していたような気がする。それともムゼッタはテーブルを利用していたかな? テーブルは右奥でロドルフォが書き物をするのに利用しているやつだから、多分、4幕では動かさなかった(ベッドを動かす関係で動かせないのかも知れない)。

・これまでトリノ、メトロポリタンと観たが、ゼッフィレリ版(ビデオでも観ているので印象は強いわけだが)のメトロポリタンのやつを含めてすら、今回の演出(舞台装置)が好きだな。唐突にパルピニョールがすごく派手なピエロの衣装で、相棒が2人いたのを思い出した。

実に楽しかった。

・思い出した。1幕だと思うが突然ピアノの音がしたのだけど、あれはなんだったのだろうか(まあ、ハープなんだろうなぁ)。確か電話の音を聴かされた(私はミミの最後のあたり)のよりも前だから、この冷たい手の手前くらいだと思うのだけど)。


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