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日々の破片

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2024-06-02

_ デカローグ5と6

新国立劇場のピット(小劇場が名前なのかピットが名前なのかわからん)で、デカローグの5と6。

わざわざこの2本だけ別扱いっぽい気がするが、少なくとも1~4とは相当趣が異なる。

5は殺人なのだが、とてつもなく巧妙に仕込まれている(おそらく原作もそうだし、演出、役者とも巧妙だ)。

見るからに粗暴でグロテスクなタクシー運転手が怒鳴り散らしながら登場する。

だが、団地の上のほうで作業している間抜けが雑巾を落とすというとてつもないミスを仕出かしたのが原因なのだから、怒鳴り散らすという態度のせいでタクシー運転手に対して観ているこちらは不快感を覚えるのだが、タクシー運転手はパリスのように何も悪くない。

そしてタクシー運転手はそういう(死の危険と隣り合わせの)羽目に陥ってむかつきながら洗車を始める。

始めたところで、産気づいた妻を慮る夫に病院へ連れて行けと言われる。観客から見て実に不愉快な態度を取りまくり最後はスルーして去って行く。

この時点でタクシー運転手は(乗車拒否はともかくとして)ほとんど悪くはないのだが、実に悪い印象を与える。

一方、若者登場。無敵の人だというのはわからなくもないが、おどおどして見るからに弱者に違いない。カフェで店員にいやな態度を取られる。が、強くは出られず、むしろ(おそらくなけなしの)金を余分に使う方向へ持って行かされる。

とはいえ、縄を取り出したりしているのだから、こいつが殺人者なのだろうということはわかる。若者はタクシーに乗り込む。

という合間に新人弁護士が、死刑についての考察を語り続ける。

死刑は見せしめによる抑止力なのか、エンタメとしての復讐なのか?(もちろん前者というのが建前だが本当か?) そもそも機能しているのか? 人が人を殺して良いのか?

ポーランドは日本と違って一人殺しても死刑らしい(少なくとも日本では三人以上殺さないと死刑にはならないような)。

タクシー運転手は粗野な態度を崩さず不快感を与え続ける。横断歩道を子供が渡るときに、一時停止して渡らせてやって、そこで自らたまには良いことをしなけりゃなとか嘯く。が、別に好印象とはならない。

若者が左へ曲がれと言うと、タクシー運転手はまっすぐ進むほうが早く着くと言う。言い方が実に不愉快千万なわけだが、おそらく職業上の正しい選択をしているようだが、観ているこちらは実は遠回りなのかとかそれまでのタクシー運転手の言動から素直には聞けないが、実はタクシー運転手は嫌なやつではないのだろうなと想像はつく。

人気がなくなったところで若者は運転手の首を絞める。タクシー運転手は金の場所を言う。そこではじめて単なる殺人者は強盗に変わる。なかなか死なないのでこれでもかこれでもかと暴力を振るう。運転手が倒れてクラクションが鳴りまくると電車が通り過ぎて轟音。可哀想な運転手。だが、それまでの不愉快さがあるので、まったくカタルシスは無いが、とはいえ、同情もしない。

弁護士と若者の長い対話。若者が無敵の人になったのはまさになるべくしてならされたという事情はわかるが、とはいえ、殺し方が普通ではないので、同情はできない。

そして若者はじたばたしながら首を吊られる。これまた、まったく同情はできないのだが(何しろ殺し方が普通ではない)かといって、そこに何の意味も見出せない。ただ殺人があるだけだ(それは強盗に変わる前の殺人と同じだ)

弁護士は無力感に捉われる。観ているこちらも、ではどうしろという嫌な後味だけ(こういうのは人生における喉に刺さった骨なのだから悪いものではない)が残る。

続く愛については、覗き見母子に影響されて覗き見をすることになった孤独な郵便局員(ちょっとディーバ)のストーキング行為と、これまた孤独な中年女性の愛と幻滅の物語。おもしろさは抜群。最後、郵便局員は人間として一皮剝けてしまう。母親の異常っぷりがおっかない。


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