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日々の破片

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2021-11-22

_ ニューシネマパラダイス

妻がプライムビデオで観ようというので、ニューシネマパラダイスを観た。

感動の映画みたいなことは散々見聞きしていたが(例えばポンポさんではジーンが映画監督を目指すトリガーになっている)、観るのは初めてなので楽しみだ。

見たらいろいろ想像と異なっていた。

正直なところ、それほど好きでもなければ感動的でもなかった。

何よりも、おれがこの作品から喚起されたのは、以前読んだ寺山修司の子供の頃映写部屋に入り浸っていたというようなエッセイだった。というか、まさに映写部屋に入り浸る作品だったのは知らなかった。

素晴らしい瞬間はある。

フィルムの搬送が間に合わずに映画館の前で村人たちが上映しろと騒ぐ。そこで、映写機のマジックだと、レンズの前の鏡をいじると映像が部屋の中を動き、窓の外に出て行き広場の大きな家の白い壁に映画が映る。このシーンはジーンだ。

なぜかと考えると、あまりに断片的に過ぎるからのようだ。とにかくせわしない。

せわしなさの原因は、神父(最初の時点での映画館のオーナー)がキスシーンをすべてカットさせることにあるのだろう。数秒のシーンを映写技師が切り取る。切り取った断片が最後に約束通りの結果となるので、この断片っぷりがモチーフとなるのだから、映画そのものも断片っぽいのもわからないでもない。その後映写技師が主人公の少年に交代した後は、少年にはカットする技術がないので、お色気シーンはそのまま上映されるようになる(オーナーが変わったから検閲をしない方針となったのかも知れない)。

が、もう少し映画に焦点を絞っても良いのではないだろうか。映画の映画ではなくキスシーンのショットの映画だ。

チェンカイコーの自転車を漕ぐ子供たちの嬉しさみたいなものが思い浮かぶ。おれはそういうものが観たかったのかも知れない。

兵役から帰って来る広場のシーンは悪くない。見上げると映写室の窓からオーナー(それとも新しい映写技師?)がこちらを見ているが、主人公だと気づかない。それで故郷を出る決心をする(ように読めるのだが、違うのかなぁ。このシーンはすべてがロングなので読みにくいようにしているように感じた)。

要は、映画の映画なので、他の映画の記憶が喚起され、それらと比較するとすべてにおいて劣っているように見えるのがこの作品の不利な点なのかも知れない。

兵役で帰ってくるといえば、シェルブールの雨傘もそうだがその執着はないし、恋々風塵のあまりに頻繁に手紙を書いたため恋人は郵便配達員と結婚するというようなエピソードもない。宛先不明の手紙が机の上に溜まるだけだ(それはそれで悪くはない)。

ところで、世界大戦後のイタリアの兵役とは? とは不思議に感じた。NATOになるのだろうか? フランスであればインドシナもあればアルジェリアもあるが、枢軸国だったイタリアもそんなにすぐにNATOに組み込まれたのかな? それともエチオピアあたりの後始末があったのだろうか。

イタリアといってもシチリアなので、ナポリ人を北の人間と村人が言っていて(字幕の誤訳でなければ)ほぉと思った。

シチリアといえばカオスで白い海辺を子供たちが下りて行くシーンや、副王が窓からこちらを観ているシーンが喚起される。が、風景はほとんど無いに等しい(広場は別)。広場で人々が怒号を上げたり、葬儀をしたりするが、そこで踊るわけではない。

疑似父子の物語としては美しいが、羅小黒戦記のような疑似父親への反発(切り取ったフィルムの処理のように無いわけでもない)、天気の子のような疑似父側の決断(いや、旅立たせるのはそれに相当するか)、ムーンフリートのような疑似父親側の受容の過程(は全然ない)のようなテンションがまったくない。

実は疑似父子もので一番重要なのはこの疑似父親側の葛藤だったりするのではなかろうか。受容するというのはそれまでの関係から一歩踏み出して疑似子供の成り行きを守り抜く必要があるので、そこに決断が迫られる。それが映画としての緊張となる。天気の子にもそれはあったし、羅小黒戦記にもある。

とすれば、そもそも疑似父子ものとして作品を考えていないのだろう。妻によれば完全版(おれは観ていない)ではローマに進出後に元の青い目の恋人との再会以後がえらく長いらしい。

ということは尺合わせのために切り刻んでいくうちに全然違う映画にしてしまったのかも知れない。

もしそうだとすると、ポンポさんのジーンのこれ一本がニューシネマパラダイスなのは本当に正しい選択だろうな。

ニュー・シネマ・パラダイス (字幕版)(フィリップ・ノワレ)

小学校の卒業試験(これは良い制度ではないか?)会場に大人がぞろぞろやって来る。旧政権では義務教育ではなかったのだろうか? 映写技師もいる。10歳のときからずっと映写技師をしていたと語っていたから小学校を卒業していないのだろう。人生に必要な知識は映画から得た(引用が得意だ)。試験用紙に手を付けずにペン(インク壺につけて使うタイプ)を所在なさげに弄ぶ。主人公はそれを見てニヤニヤしている。カンニングをどうやるか? このシーンは好きだが逆に長過ぎて途中でいやになった。


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