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日々の破片

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2014-08-21

_ シュトルム・ウント・ドランクッ

ユーロスペースでシュトルム・ウント・ドランクッ。

ギロチン社(大正の無政府主義テロリスト集団)の映画ということですごく楽しみにしていた。しかも主人公が中浜哲だというので興味津々だ。

で、観た。

評価が難しい映画だ。面白かったか? と問われれば、退屈はしなかったし、少しも悪くはないのだが、でもそれほど面白かったわけではない。

面白い点のほとんどは映画そのものではなく、題材にどうしても依ってしまう。

大正デモクラシーという時代は天変地異を背景に白色テロルと黒色テロルがせめぎ合う極めて特異な時代でそれだけで興味津々だ。

黒旗水滸伝 大正地獄編〈4〉(竹中 労/かわぐち かいじ)

(ご多分に漏れず高校生の頃に現代の眼の連載で大正時代についての初歩を学んだのだった)

映画そのものは、1970年代の亡霊も良いところだ。寺山修司(田園に死すの看板の美術と持ってた人が監督らしい)、ATG、シネマプラセット、内藤誠の系譜に連なる。カットバックが異様に多い。

最初平成で始まり、そこに橘宗一と表札がかかっていれば、はて大杉や伊藤と一緒に井戸に放り込まれたはずだが、と、そこで異人たちの物語として枠を作っているのかな? と考えるわけだ。すべての固有名詞がおれには非常に身近だからだ。

おかっぱの身軽そうな女性が出て来ればピストルオペラを想起する。

壁に窓があり、それが出るとギリギリ音がする。音のギリギリっぷりが、ドグラマグラ(小説のほう)を想起する。が、音がでか過ぎる。ここまで音をでかくする必要はないだろうというほどでかい。このアイリスインアウトに使われる壁と窓の向こうに浅草十二階が見えて、となると、大震災が予兆されることになる。

舞台は大正12年に戻る。いかにも中浜哲な丸顔の男が佇み、雨が降り始め、シンセイかな?缶からタバコを出して咥えてマッチを擦る。火はつかなくて、湿気ったマッチと天気に悪態をつく。

小作社にたどり着くと、見るからに古田大二郎な古田大二郎がいる。

ギロチン社(まだ単なるリャク専門のチンピラ軍団でテロリスト集団に脱皮する前)のカラフルな雨戸だかは史実に基づいているものだそうで、それは知らなかった(舞台が終わった後のトークショーで監督が語っていた)。

役者は服装を含め、みな、出てきた時にそれとわかるくらいにうまく作られている。もちろん小西とか田中とか名前しか知らない人物については紹介されるまでわからないが、和田久太郎だの村木源次郎だのは出てきた瞬間にわかる。そのわかる感覚も映画のうちだとすれば見事ではあるけれど、それは知識がある鑑賞者のみの楽しみに過ぎない。

映画は滑稽映画として進む。細川邸でのリャクのシーン、英国皇太子暗殺未遂のシーン、甘粕の弟襲撃のシーン、福田襲撃のシーン、いずれも遊戯的な演出で、まるきりリアルスティックではない。夢の物語だからだ。シュトルム・ウンド・トランクというよりは、もたもたのろのろだ(というのは別に悪くなく、そういう演出としたことは興味深い)。もたもたのろのろといえば井月だな(とつげ義春を想起するわけだが、そういうトーンなのだ)。

それは古田による銀行員刺殺のシーンですら同じだ。

いやー、こいつら本当に愚かだな! という演出なのだ。うん、愚かだ。歴史として文字で書かれたものから受ける緊迫感や破れかぶれっぷりが、どんづまった人たちの滑稽で現実から遊離した抵抗として映し出される。

相当史実を調べているのか、有島武郎からの援助についても描かれていたりする。

ギロチン社の人物たちがイメージ通りなのに対して大杉栄は目がいささか小さく、伊藤野枝はやたらと背が高い(大杉より14cmくらい低いはずだ)。橘宗一を含むこの3人は舞台から浮いた存在として描かれている。やはり夢物語なのだろう。

最後、クレジットを見てコンテクストをいろいろ納得しまくる。

企画は夜行の人で、えらく納得する。個々の役者はわからないが、福田が流山寺祥、何の役か忘れたが天野天街とか、小劇場のそうそうたる人たちが参画している。

映画と演劇は絶対的に異なるのだが、シュトルム・ウント・ドランクは(小劇場スタイルの)演劇だったのだ。それが映画としての面白くなさに通じる。映画を期待していったので肩すかしを食らわせられたのだった。

確か高橋悠治が黒テントについて「電車に揺られてといいながら揺れてみせる」と評していたが、演劇の人はどうしてもそういう癖が出てしまうのだろう。それが映画としては異様に滑稽で、もしかすると滑稽感は狙って演出したのではなく、そうなってしまっただけなのかも知れない。

演劇では特権的肉体がものを言う。だが優れた映画には特権的な肉体は不要だ。監督に言われるままに扉をあけて入ってきて壁まで進んだら、壁に対して垂直に歩き続け、天井をそのまま歩いて扉側の壁を歩いてそのまま出て行く役者によって優れた映画ができる。(という映画と役者の関係を、宮崎駿の映画を観るといつも思い出す。声優というアニメ(映画と演劇が異なるように、映画とアニメというのは異なるジャンルなのだと考えざるを得ない)の手垢が抜けるせいでアニメというカテゴリーを完全に無視した観客動員ができるのはそういうことだろう。実際、観ていると映画のコンテキストで観ている自分に気づく)

難波大輔や金朴烈に対する言及があったが、大正は白色を含めテロルの時代だったのだな、と感慨深い。

最後の間際、昭和6年となり、尺八吹いている人が出てきておや辻潤かなと思うと、そのまま白山の店(南天堂。当時からの有名な店らしいが白山にもモダンな時代があったとは知らなかった)になる。(多分、市電が走っていたのだろう。交通機関の変遷で街の意味付けが変わった事例として万世橋と同様な歴史がありそうだ)

宮崎資夫は名前が出ていたが、あとは辻潤(尺八があるから)と林芙美子くらいしかわからなかった。サトウハチローとかも居たのだろうか? 無政府主義は政治的なテロルから芸術的なテロルへ変わって生き延びている。そのフロアをギロチン社の面々がフォックストロット風に踊る。ここはシュトルム・ウンド・ドランクだ。

思い返してみると個々のシーンには美しいものも多かった。しかし、映画としてはやはりそれほどおもしろくはなかったなぁ。

それにしても夜行とガロ、あがた森魚(ここでは甘粕大尉)という似たようなコンテキストでも、こちらは会社が倒産するほどのひどいものでは無さそうで、さすがにプロの監督はうまいな、とは感じた。

終演後のトークショーは音楽担当の人でジンタらムータというバンドの人らしい。生演奏でワルシャワ労働歌ダダの時代版など。クラリネットの表現力にびっくりする。これは素晴らしかった。

本日のツッコミ(全3件) [ツッコミを入れる]
_ yuumi3 (2014-08-24 17:18)

「夜行」って「夜想」ことですか? ずっと気になっていて昨夜とつぜん思い出したのですが。

_ arton (2014-08-24 18:50)

いや、夜行です。高野慎三という方(元はガロの編集者だと思う)が、立ち上げた雑誌でつげ兄弟や菅野修の作品を出し続けています(で、これ書いた時は高野慎三という名前の漢字を調べるのが面倒だったので夜行と書いた)。調べたらAmazonには無いというか、幻燈という名前に変わっていますね。たとえば http://www.amazon.co.jp/gp/product/489289138X?ie=UTF8&camp=1207&creative=8411&creativeASIN=489289138X&linkCode=shr&tag=leclatdesjour-22&=books&qid=undefined&sr=1-1&keywords=%E5%8C%97%E5%86%AC%E6%9B%B8%E6%88%BF+%E5%B9%BB%E7%87%88

_ yuumi3 (2014-08-24 19:04)

そうですか、浅はかでした m(__)m


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