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日々の破片

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2014-02-21

_ スーフとスーホの白い馬

もう先月のことになるが、親のところに行ったら、なぜかスーホの白い馬がブームになっていて、何冊か置いてあったので全部読んだ。

物語は、どれも大体同じ。

スーフとかスーホとかいう名前の子供が白い馬と友達になり、いつも一緒にいて心を通わせているために、すばらしい乗り手となる。

王様が開催した優れた馬乗りを選抜する競技に参加するのだが、王様はみすぼらしいスーフだかスーホは気に食わないが馬はとても気に入る。かくして馬を没収してスーフだかスーホだかは叩きだす。(娘の婿選びとしている場合もある。次の王は優れた乗り手であり武人である必要があるのだろう)

馬は王様の元を逃げ出し家へ帰る。しかし素晴らしい馬を手放すくらいなら殺してしまえという王様の命令により、帰り着いたときには馬はすでに瀕死で、すぐに死ぬ。

馬の遺言により、スーフだかスーホだかは馬頭琴を作り奏でる。

粗筋にすると大した話ではないが、すぐれた画と文章がつくと、馬と少年の心の通い合い、権力者による裏切りと暴力、死による別れと芸術による再生の、見事な物語となる。

スーホの白い馬―モンゴル民話 (日本傑作絵本シリーズ)(大塚 勇三/赤羽 末吉)

多分、一番普通のやつ。悪くはないが、今となっては、良くもない。

スーフと白い馬(いもとようこ)

これは評価が難しい。正直言うとメメメメルフェン調に過ぎて気持ち悪いのだが、ここまで幻想的にしてしまうのも、それはそれでありかも知れない。

で、絵柄が古臭いし、ちょっと気持ち悪いので後回しにしたやつが衝撃的だった。

スーフと馬頭琴(ばとうきん) CDつき (モンゴル民話)(アルタンホヤグ=ラブサル/藤 公之介)

つまり、これが最も素晴らしかった。

社会主義リアリズム調の画で、血は血として描かれる。棍棒が容赦なくスーフを襲う。血は大地に染みわたる。騎馬軍団が放つ矢が容赦なく駆ける馬に降り注ぎ、突き刺さり、血が流れる。

馬を解体して骨で楽器を作るところまで生々しい。

グロテスクで、生々しく、幼児に与えるとしたらちょっと考えてしまうかも知れない。まるで現実のようだ。

それだけに、孤独な少年が馬と出会って過ごした幸福な日々から一転して、暴虐の王への怒りや、その取り巻きの醜さ、馬と少年の最後の心の通い合いといったものが、ストレートに表出されている。

どれか一冊といったら、これだ。

追記:思い出したが、最後のスーフの馬頭琴が素晴らしいのは、画が持つリアリズムのせいで、暴虐の王の気持ちまで読めることだ。

他の本では王は単なる機械仕掛けの悪神に過ぎない。

しかしスーフの馬頭琴は異なる。

緻密なまでに王とその臣下、臣民を描いているために、政治状況から競技の意図までが読めるのだ。それは文章ではなく画の力だ。

年を取り戦闘力が落ちた王は、強い王国の後継ぎを本気で求めている。

そこに現れたみすぼらしい本来参加する資格もなければ勝利することもあり得ない身分が異なる異界の者が勝利してしまう。これを認めれば王の権威も臣下からの信頼も王国のありようも、これまでの政策も、すべてが覆る。

王として取り得る最も適切な手段として、勝利は馬によるもので、乗り手は無関係だとするしかない(本物の名君であるならば、ここでスーフを正当な勝利者であるとして万民を納得させることができるわけだが、そこまでの器ではない)。

そのため、臣下も臣民も喜んでスーフに対する迫害に加担する。

馬は武器なので、逃走して敵となる可能性があるのであれば、殺す。殺す側も命がけだ。

敵にも理があるからこそ、スーフと馬の悲劇は強調され、復讐へ向かうのでもなくいつまでも嘆くでもなく、スーフは馬頭琴を奏でることで折り合いをつけるしかない。機械仕掛けの神による運命の変転ではなく、自らの選択が招いた真の絶望がそこにはある。それはものすごく静謐でありながら哀情にあふれている。

別解)だが、庶民は権力に積極的にかかわるべきではないという封建主義下での処世術が導かれることこそ子供用の本としては避けるべきという考え方もある。


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