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日々の破片

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2010-12-29

_ 新国立劇場のトリスタンとイゾルデ

えらく満足した。

トリスタンはオセロで観たことあるグールドという巨漢。良く通る声の立派なトリスタン。イゾルデはトゥーランドットとかブリュンヒルデとか新国立劇場の常連みたいなテオリン。おれは好きではないが(どうも好きな音ではないので、こればっかりはしょうがない)今回もやはり好きではない。それに対してブランゲーネの人はいいな。あと、クルヴェナールはヴォータンやってた人。この人は好み。2幕では一言トリスタン!と叫ぶだけだが3幕では大活躍。

前奏曲は最初の2つの塊の間が良く、解放されるところの入り方も好きで、いきなり気に入る。大野和士という有名な人らしいが僕には初めて。でもそういうわけでいきなり好きになる。

オーケストラは前奏曲は良かったのだが1幕の途中で金管が派手に失敗して、2幕でそれなりに持ち直していたのが、3幕でぐだぐだになったりしたのが耳についたが(全体が良いと粗が気になる原理)、それでも全体として良い演奏だったと思う。厚みとか。

トリスタンとイゾルデは名曲という扱いだが、CDで聴くとどえらく退屈で、前奏曲以外の印象がまったくなく、当然のように物語もちゃんと把握していなかったので、今回字幕つきできちんと観て、結構驚いた。

だいたい、ペレアスとメリザンドのような話だろうと思っていたので、塔でのゴローの一閃のような悶着があるのかと思っていたら、いきなり無理心中するために毒薬を盛ろうとしたら侍女が機転を利かせ過ぎて媚薬に取り換えたために、したくてしたくてたまらなくなるというある意味エロ話のような内容だったのにはびっくりした。それもあってか2幕では男女交合の象徴としか思えぬ巨大な棒と輪っかがそびえていて、逢瀬の最中は輪っかが光って、マルケ王と家臣が乱入してくると輪っかの光が消えるとか、妙な舞台。(あとでマクヴィカーの演出と知って、なんとなく納得したり)

でも、舞台美術は好き。

前奏曲の途中から白い月が波の上にゆっくりと上り右へ動いていく。美しい。1幕はぼろぼろの船の一部で、全然平和かつ幸福な婚礼の船には見えず、2幕はその妙な棒と輪っかで、3幕は海辺の岩(でもトリスタンはパイプ椅子)。

3幕はいきなり赤い太陽(夜の次なので朝日のイメージかと思ったが、おそらく血にまみれた白日なのだろう。イゾルデが着くと薄妙な白光となり、最後は暗黒の海へ赤い背中が消えていく(というか、イゾルデの衣装は最初黒い頭巾かと思うとぱっと後ろに投げると巨大な赤いローブとなり、非常に効果的)。

3幕の開始時は海辺の岩場でむさくるしい(ホームレスのような)トリスタンとクルヴェナールがうだうだしていて、どこのゴドー待ちか、それとも検非違使を待つ俊寛か、ここはどこの喜界島といった趣。しかも船はまだか、船は見えるかと大騒ぎなので、ますますもって俊寛みたいだ。

ユリシーズが翻案されて百合若大臣になったように、トリスタンが翻案されて俊寛(トシヒロンと訓読みするのが正しかったりして)になったのかなぁとか想像してみたり。時代的にも12世紀頃の発祥だから、鎌倉時代にシルクロードを経由してやってきたとしてもおかしかない。

音楽はそういう意味では前奏曲以外はきちんと聴いたのは初めてと言っても良いくらいなので、新鮮だった。1幕、侍女がとうとうと、権勢並ぶものなきコーンウォール王の女王となるのだから好意というものだろうJKとか言うのに対して、イゾルデのセリフは何やら単なる言いがかりのようで、なぜ心中に持っていきたいのかが今一つ良く見えない。

2幕は、なるほど演出通りの性交音楽で、それは良いとしていささか長すぎてだれた。30分程度でいい内容。ただ、オーケストラのうねり具合もグールドの声も良く、聴いていて実に気持ち良い。

3幕は、打って変わってドラマティックだが、最初の羊飼いの笛はちょっと気持ち悪すぎるかなぁ。侍女と王女のかけあいに始まり、従者と騎士が入ってきて、また侍女と王女のかけあいで、騎士と王女で延々と歌い、そこに王様が入ってきて、今度は従者と騎士のかけあいで、そこに王様が入ってきて最後に王女が歌いまくるという(まあ、あと雑魚がちょっと歌う)、歌手にとっては歌いっぱなしの5時間で、相当疲れそうだ。元は軽い小品を、発表のあてない指輪の作成に疲れた(資金も底をついた)ヴァグナーが、稼ぎ仕事用に構想したというだけに、オーケストラもハープは2面しかないちょっと小ぶりな感じだが、内容たるや超ヘヴィー級の超大作になっているところが、ヴァーグナーってのは怪物であるなぁとつくづく感じる。

そこかしこで、あたかもジークフリートのモティーフ(≒アルベリッヒの呪詛)のようだったり、なるほど、途中でこの作品を作ったから、火の山での世界挨拶や神々の黄昏があれだけ重層的な見事な音楽になったのだなぁと(練習重要)と思った。

それにしても、マーラーやシェーンベルクを通り過ぎた今聴けば、実にロマンティックで官能的な美しい音楽だけど、当時の人にはぶっとびだったのだろうと思うと時間の経過と表現の過激さというのは不思議なものがある。

ワーグナー : 楽劇「トリスタンとイゾルデ」全曲(ワーグナー/クライバー(カルロス)/ドレスデン国立管弦楽団/コロ(ルネ)/ライプツィヒ放送合唱団/プライス(マーガレット)/ファスベンダー(ブリギッテ)/モル(クルト)/フィッシャー=ディースカウ(デートリッヒ)/ゲッソ(ベルナー))

(当然のように持っているのはクライバーとドレスデンなのだが、どれだけクライバーがすごい指揮者であろうとも、どれだけコローがその頃のヘルデンなヘルデンテノールであろうとも、実際の舞台でそれなりの演者がやっているものを観るほうが、数億倍も素晴らしいと実感しまくった)


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