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日々の破片

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2010-10-02

_ アラベッラ

新国立劇場でアラベッラ。

リヒャルト・シュトラウスのオペラとしては影の無い女に続く第2弾ってことだが(ラインナップを見て、シュトラウス、モーツァルト、ヴァグナーを組み合わせて意味づけをしているのだな、と気づいた)、おれにとっては初見。

アラベッラはミヒャエルカウネという人で、1幕目では声はきれいだが小さいなぁと思ったが2幕目以降はそんなことはなく凛々としていて見事。初日なので最初はセーブしていたのかも知れない。1幕目の乗馬服のような姿で出てくるところも、2幕目で舞踏会の女王として振舞うのも良かった。3幕目のグラス(コップじゃないなぁ)を持って降りてくるところ。なるほど見せ場だな。

演技としては、それ以上にズデンカのラスムッセンの3幕目が良くて小柄なこともあるだろうが、しちゃった小娘感の表現が可哀想。オペラで歌の切なさで同情するというのはこれまでまったくなかったのだが、演技が付くと話が変わるのかも知れない。

マッテオは軽いかんじだが(シーンの長さもあるのだが)うんざり。うまく演じれば野暮ったくてうんざり、軽く演じれば野暮ったくはなくてもやっぱりうんざりという、多分、非常に損な役回りだとは思うが、そんな感じだ。

一方、マンドリカのマイヤーはカウフマンではないが好い男っぷりの歌手だなぁと歌も堂々たるものだし、衣装も演技も良かった。

歌としては、1幕の2重唱、1幕のマンドリカの伯父だったらこう考えるだろうからの歌、2幕の2重唱、3幕のズデンカが好きだな。全体にえらくわかりやすいので、影の無い女とかと比べると単調な気もするが、オーケストレーションは素晴らしいし、きれいなメロディーはきれいなメロディーだから、おれは好きだ。

が、この物語は一体なんなんだ? と不思議になる。

ドラマツルギーは良いから、そのせいで感動的な作品となっているのもわかるが、それにしても突っ込みどころが多すぎるような。

これが喜劇なのはセリフの数々(あと親父の動き。しかしドラマツルギーから親父ははみ出しているように感じて、マッツオともども損な役な気もする。歌手の妻屋という人はリングで巨人族をやっていた人だと思うが良い歌手だ)から明らかなのだが、たとえば牝熊に襲われて12週間寝込んでいたからどうしたとか、ユダヤ人に森を売って金を作ったから好きなだけ取れとか、金がなくて娘を二人育てるのは無理だから妹はこれからも男として育てて下男として使えるからラッキーとか、これっぽっちも笑えない。というよりも、笑わせるつもりがまったくない喜劇というか。

さらによくよく考えてみるとマンドリカの台詞は奇妙過ぎる。

妻とは2年間一緒に暮らした。

妻は神に召された。

手紙を読んでいると牝熊に襲われて血まみれになったので読めない。

私は若くて妻には悪いことをした。

というのを並べると、なんとなく数年前に病気で妻を亡くしたように思えるが、実際のところ妻はいつ死んだのか、死因はなんなのかはまったく語っていないではないか(字幕だから省略している可能性はもちろんあるのだが、ここではおれの知りうる範囲として字幕だけから考える)。

それに狩りに行くというのは知っていても、狩りの最中に手紙を読んでいるところを牝熊に襲われるというのも不自然だ。というか、牝というのをなぜ強調する? (henとcockみたいな言葉なのかも知れないけど、それは知らないので無視)

とすると、あり得るのは、若くて妻よりもっと美しい天使がいることに気づかず写真を見て後悔してたら、嫉妬した妻に襲われたので返り討ちにした、ということのような気がしてくる。何しろ単純な男だというのはその後の行動からもよくわかる。

こうもりといい、ウィーンのスラブ人というのはどうにも不思議な扱いだな。

そもそもズデンカの行動も異常だし(まあこれはミドルティーンで後先考えなくやってしまったとは言えるとしても)、ズデンコがズデンカだとまったく気づきもしないマッテオもおかしい。親父は妻と娘の男扱いを不快に思っているらしいが(コスプレごっこの罰が当たったんだバカめが、というような台詞がある)ではなぜ止めなかったのかとか。

曲は気に入ったので、もしかしたらこれでも買ってみようかな。カイルベルトだしフィッシャーディスカウだしウィーンだし。

R.シュトラウス:歌劇「アラベラ」 他 (3CD) (Strauss, Richard: Arabella)(R.シュトラウス/ヨゼフ・カイルベルト/カール・ベーム/ウィーン・フィルハモニー管弦楽団/ウィーン国立歌劇場合唱団/リーザ・デラ・カーザ(S アラベラ)/アンネリーゼ・ローテンベルガー(S ズデンカ)/ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Br マンドリーカ)/オットー・エーデルマン(Bs ヴァルトナー伯爵)/イーラ・マラニウク(Ms アデライーデ))

衣装は森英恵で、カーテンコールにも出てきていて、衣装の人がカーテンコールに出るのもこのくらいの有名人だとありなのかぁ、と思った。

演出はとても好き。元の舞台を20世紀に移しているのだが(ホテルの部屋にクリムトが飾ってあるのはうまいなぁと思った)、おかげで衣装が軽くなり、劇構造もクリアになっている。その分、マンドリカの田舎モノっぷりにちょっと無理がありそうな気もしないでもないが、元々台詞はおかしいのだからその点は問題なしというか、これから20年もするとドイツ第3帝国によってこなごなにされてしまう微妙な世界を感じさせて良い感じ。

これまで新国立劇場でオペラを見て、難解だったり不快だったりする演出にはあたったことは無いなぁと、その点に関しても良い劇場だなと思う。


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