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日々の破片

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2022-09-20

_ ファンタジウム

表紙が、なんかCOMかよ、みたいな古臭い感じでどうにもつまらなそうに感じたのだが、コミックバンバンで他に読める(1日あたり4枚×2のチケットで)のがなかったので、読み始めたらびっくり仰天。これはすごい。おもしろい。

紋切型な感動マンガな面もあるのだけど(が、それに乗せられて思わず感動してしまったりもするのだから本物だ)、ディスレクシアで貧弱な中学生(おまけに登校拒否だったりいろいろ)が、知り合ったマジシャンの爺さん(家族に見捨てられた)から仕込まれた手品で生き延びていく話(で、マネージャが父親に言われて爺さんを捨てたことを後悔しまくっている孫というように人間がからみあう)。学校でのあれこれあり、ショービズのあれこれ、賭博との関係あれこれ、いろいろ脇の筋を固めて、しかし王道的な悩める少年が自分の得意なものに人生を賭けるという物語をかっちり作っていてうまい。物語の深みに、悩んでいるのが少年だけではなく、周りの人間も(それが人生だから当然だが)みんなそれぞれの悩みがあったり影も光もあるところだ。

普通、そういう複雑な人物が大量に出てくると物語がうまく構成できないと思うのだが、設定のうまさの1つに主人公が酸いも辛いも知り尽くした老人に仕込まれたせいで、口上が時代がかって大仰、手品師の心得として相手の心理を読み解くのが得意、ってのがある。

前者はマジックの場面の演出に言葉がたくさん入り込むことで魅力的にするのに役立っている。

が、特に後者の設定がうまい。それによって登場人物の背景説明を自然と話に組み込むのに役立っている。主人公はすぐに相手の台詞の奥底を見透かしてしまう(が、周りの人たちは額面通りに受け取ることが多い)のだが、子供の立場とかさまざまな要因からそれをうまく説明することができない。結果的に物語がスムーズに流れる。それにしても、単に女たらしで独善的なだけで、頭は切れるし、視野が広くてなかなかの人物である心理学の先生の使い方がうまい。

隠れた(本屋大賞を受賞していたらしいが、それほど人口に膾炙しているとは思えない)大傑作だった。

ファンタジウム(杉本亜未)


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