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日々の破片

著作一覧

2021-12-18

_ ガラスの動物園

とんでもない閉塞状況(1930年代―大恐慌後、没落した南部農園主の娘(母親)とその子供(姉と弟))の密室劇。高校生のころに岩波文庫で脚本は読んで、今となっては弟が映画好きとしか覚えていなかったが、こんなに圧迫感がある内容だったのか。実に気分が悪い。

全体は弟の回想-現在の額縁の中に納まる。

最初に登場人物について弟が語る。重要なのは裕福な青年紳士(外部から訪問して外部へ去っていく)と出現することがないメキシコに去ったらしい父親で、父親と紳士(の現実版)の共通点はいずれも最新のテクノロジーに関係するところにある。この二人を除けば母-姉ー弟は過去に捕らわれている。それが(触れたら簡単に壊れる)ガラスの動物園でもあって、全員が動物園の檻から出ることはできない。一見額縁を描くことで外部に逃れたように見える弟ですら相変わらず檻の中にいる。それを家族愛と考えるか、閉塞状況そのものと見るかは考え方ではあるが、現在の状況と照らし合わせれば後者でしかない。

弟が状況打開のために第2次世界大戦を心待ちにする「希望は戦争(気分はもう戦争ではない)」状況は、今日の日本的な状況そのものだからだ。

その意味でうまい作品を舞台に上げたものだ。

過去のことを延々と語っては子供を責める今でいうところの毒親、引きこもりの姉、就職に失敗して鬱々と楽しめない(若年ケアラーでもある)弟と、この家庭がこれまた今日の日本的状況。

舞台美術も役者も音響効果も抜群。岡田ってハムレットのときも思ったが良い役者だ。

公演サイト

ガラスの動物園 (新潮文庫)(テネシー ウィリアムズ)

(岩波文庫だと思ったら新潮文庫だった。おそらくカバー無しの葡萄バージョンを手にしたので岩波だと思ったのかも知れない)

_ ラストナイト・イン・ソーホー

夜は豊洲でラストナイト・イン・ソーホー。

これは傑作だった。

2時間越えの映画なのにまったく弛緩がない。ホラー映画ならではのお笑いシーン(ヘルプ)もあったりするが、異様なサイコホラーをとてもうまく見せてくれる。

一つには主役の女優が途中からゴスメイク(もとはハロウィンパーティーのためなのだが、気に入ったのかその後もパンダメイクをしている)にして、それがやたらと似合うからでもある。というか、最初の田舎娘、ロンドン60年代ブロンド、ゴス、モダンでノーマルと見事に変わっていくのが素晴らしい。

物語は田舎の少女がロンドンの服飾学院に合格して進学するところから始まる。出だしのシーケンスでは新聞紙で作った立体的なドレスで踊り狂う。音楽が60年代音楽で、そういう趣味だとわかる(部屋のポスターもティファニーで朝食をだったりする)。

が、霊視の能力があるため(存在しない女性がちょろちょろ出てくるのだが、死んだ母親だと、祖母との話からわかる仕組みだ)、いろいろ厄介なこともある。ちょっと羊飼い地方の田舎出身のため、マンチェスター出身のルームメイトグループにしかとされたりして寮を飛び出てソーホーのロフトに居を構える。と、そこで暮らしていたらしい60年代の少女(街に出ると007サンダーボールが映画館にかかっているのでタイムスリップというか、その少女とシンクロしていることに気付く)の幻視なのか一体化なのかが始まる。最初は60年代そのものを味わえて楽しい気分(そこで最初のブロンドガールへの変身がある)なのだが、徐々に不穏になる。

とにかく作りの丁寧さには舌を巻く。

死んだ母親が見えるというのがまず上手い。

出だしのシーケンス(なら所謂ネタバレもへったくれも無いだろうから細かく書いてみると)が、ロンドンに来てタクシーに乗る(直前の郷里でタクシーに乗るところとの対比)、タクシー運転手の気持ち悪いセクハラの言葉(脚とかストーカー1号になるとか)でロンドンはおっかないと印象付けて、逃げ込んだコンビニでコーラを買う(タクシーがしつこく待ち伏せしていて主人公の恐怖心を煽る)(寮(寄宿舎じゃないけど)に入るためにタクシーで向かうってサスペリアの引用なのだろうか)。で途中下車したのでひーひー言いながら荷物をたくさん持って寮に入ろうとすると、あまりにひーひーしているので親切な黒人が手伝おうかと声を掛けるという印象的な登場するのだが、さっきのタクシーの印象があって逃げるようにして去る。と、事象の連鎖と登場人物の動きや事物の絡みが実に有機的(伏線というわけではなく、コーラの缶ですら機能を持つし、冷蔵庫を開けた時点で登場人物の性格が見えたりとか)で、極めて良くできたプログラムみたいだ。

しかも最後がとにかく素晴らしい。血は飛び散りまくる(でも内臓は飛び散らないからスプラッタとは言えない)が、爽快な後味で気持ちよく終わる。実に良い話だった。これだけ気分良い印象で観終わるホラー映画というのも珍しい気がする。

60年代イギリスのオールディーズ(フーとかキンクスとかはわかるがほとんど知らない)といってもダウンタウンは知っている(というか手元のオールディーズCDに収録されている)が、ネイキッドアイズのalways somthing there to remind meがカバーだと知ったりとか、最初のピータ&ゴードンの曲はレノン&マッカートニーだったのかとかいろいろおもしろいし、現在のハロウィンパーティーでかかるスージー&ザ・バンシーズのハッピーハウスも良いのでサントラを購入。

Last Night In Soho (Original Motion Picture Soundtrack)(Various Artists)

それにしても楽曲のタイトルがストーリーと見事にシンクロしている(良くマンガの単行本でそういうのを見るが)。これも有機的結合のうちだったのだな。


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