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日々の破片

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2019-01-07

_ どん底の人びと―ロンドン1902 読了

通勤時にちまちま読んでいた(数ページのスケッチ/省察集なので向いていた)ジャックロンドンのロンドン1902を読了。

本来南アフリカのボーア戦争の末路を取材旅行に行くはずが、出版社だか新聞社だかが、ちょうどロンドンがロンドンに着いた時点で企画の中止を決定、転んでもただでは起きないロンドンは、誰も知らないロンドン、イーストエンドへの潜入取材を提案し、了承され、そしてひと夏の地獄と悪夢の経験をする。

さっそくロンドンはロンドン在住の英国人の知人に声をかける。イーストエンドを取材したいのだが、何か伝手は? どういう方法が良いと思う? そもそもどんな場所なんだ?

驚くべきことに、誰一人として(そこには超優秀なジャーナリスト、なんでも知っているはずの社会生活研究者などが含まれる)明確な答えを持つどころか、絶対に近寄るな、極めて危険、あり得ないといった完全否定のみが返って来る。

反骨の人ジャックロンドンが燃え上がる!

絶対に取材する。

かくして、帰りの貨物船に乗り遅れてロンドンに取り残された一文無しのアメリカ人の船乗りと自己規定してイーストエンドに乗り込む。アメリカ人の船乗りという設定で背の高さと言葉の違いを解消して、かつ一文無しの労働者の仲間としてどこにでも潜入可能となったおかげで、イーストエンドに暮らす人々と会話し、暮らしを観察する。

そこは、身長150cmくらい(もちろん、文句なしのアングロサクソンのことだ。2~3世代の間に栄養状態によりそうなる、というのが事実だろうなと想像できるのは、太平洋戦争後2~3世代の間に身長175cmくらいになった日本の、つまり逆を知っているからだが)の痩せこけた死にぞこないの群れが集まる、すぐに病気で死ぬ、ゼロ歳児の生存率30%、5歳までの生存率50%の、これが世界一のGDPを誇る一大工業国大英帝国なのか? しかし彼らによってどうもある程度までは産業が支えられているような、未開の地だった。

日が射さない半地下の4畳半一間に5人家族がひしめきあい、一日にパン一切れを全員でわけあい、道徳はほぼなく、着ているものは襤褸、南京虫と虱のほうが人間よりも元気に活動している、そういう場所だった。

一方アメリカでは(と、ロンドンは本書でアメリカの数値とイーストエンドの数値をようような観点から比較するのでおもしろい)、こんな福祉が無い状態は考えられない。なんだここは? と仰天しまくる。

港湾労働者を組織したダンカレンという労働英雄の悲惨な末期のスケッチはすさまじいが、

・長時間労働 => 余暇に話し合うとか不可能

・超低賃金 => 労働後に一杯やりながらビアホール一揆のような相談を仲間とすることは不可能

・住宅事情最悪 => 誰かと何かを相談するための秘密の場所というものはない

・雇用主最適化 => 狙い撃ちによる排斥の代わりに、必要最低限の賃金を得られないだけの仕事のみ与えることが可能であり、労働者を常に競争状態に置くことによって団結する芽をあらかじめ潰す

など、さまざまな政策によって、他の国のようにストライキや暴動、革命といった行動によって富の再分配が生じることを、完全に封鎖している。

みそは、必要最低限の生活が可能なぎりぎりの保証の80%くらいに収入を抑制することのようだ。

どん底の人びと―ロンドン1902 (岩波文庫)(ジャック ロンドン/行方 昭夫)

(夏に買ったのにもう絶版なのか? というかとっくに絶版なのが岩波だから本屋に残っていたということかな。2013年の4刷だ)

・アマゾン評の低評価ので、おもしろい評があった。片や海外から来て異国の異常な状態を観察して自国の人に伝えるためのエンターテインメント性を持つジャーナリストの視点、片や自国の問題を抉って社会改良を考えようという視点、完璧に異なる視点の2つの作品を並べて前者の客観性を批判している。おもしろい。

途中でイーストエンドをエンターテインメント性を損なわない程度にまで底上げして描いたのがチャーリーチャップリンだったな、と思い当たった。あの生活水準が日常茶飯で、かつそれが死ぬまで続く、あるいはスクールジに雇われている秘書は他の人より1.2倍くらいはもらっているとして勘案(子供の数とか住居とか考えるに)するとかだな。

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