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日々の破片

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2013-06-26

_ 機龍警察完読

21日に残り2巻分買って、結局、4日で全部読んでしまった。

それは息もつかせぬ面白さだ。

が、2巻目(自爆条項)を読んでも、なんか違和感(というよりも不快感)はそれほど変わらない。というか、G線上のアリアがどうしたに加えて、下手な線路の詩(この詩が大してうまくないことは物語の中で逆に意図を持つことになって、そういうところの小賢しいとさえ言える物語作りの巧みさはそれは見事なものだけど)と、どうでもよいエッセイが追加されてよりパワーアップだった。しかも、体言止めの感傷的な段落がばんばん挟まる(意図的に感傷的な印象を生むために奇妙な体言止めの連続をあえて繰り出してくるわけで、この作家が技巧的にもうまいのはわかるが、辟易する)。大体、そこでG線上のアリアに無理がある。そこはやはり、主よ人の望みの喜びをだろ(羊はやすらかに草をはみだとさすがにあざとすぎるけど、)。

プレイズ・バッハ(高橋悠治/バッハ)

どうしてかなぁと考えて、わかった。

出てくる人物に誰一人として共感できないからだ。

技巧に走り過ぎている例:夏川コンビは、他の警官から疎外されているが、実にまじめに仕事をしているので、共感しやすいのだが、モビールスーツ乗務員に対して偏見があり、しかもそれが相似の負の構造(警察組織の閉鎖性)だと自覚している。負の構造だと気付いているなら、偏見を捨てろよ。

メガネっ子の科学者:雇われテロリストを見かけるたびにいちいち拒否反応を示すが、少なくとも自分に関するテロの実行犯ではないことを知っている。同一組織に関連している人間ということだけでいちいち拒否反応を示すというのは、南京で爺さんを殺したのと同じ日本人だというだけで、未だに何かあれば日本車のディーラーや大使館を襲撃したりするバカと変わらない。バカは嫌いだ。

組織者の元外交官:人格をあえてなくして描写しているから、共感もへったくれもない。

取り巻く優秀な官僚たち:単なる組織をきちんと回すための機械として描いているから共感もへったくれもない。

現場の人たち:それぞれ味もあれば人間味もあるのだが、しょせんモブで何かあればすぐ死んでしまうから共感もへったくれもない(1巻の突撃班長が良い例)

傭兵:実に感じが良いやつなのだが、過去の心情を描いていた1巻から、主役がテロリストへシフトしたため、単に作戦会議の最中に、議題と進行方向について、読者のための解説をする機能的な存在と堕しているため、共感もへったくれもない。

テロリスト:さすがに感傷的過ぎて共感もへったくれもない。

テロリストのえらい人:途中まで良い線いくのだが、作者がこの男にマイナスの側面をすべて投入する必要があったために、途中から単なる卑劣漢として描かれていて、共感もへったくれもない。

ロシア人:いいやつっぽいけど真面目すぎてうっとうしい。

謎の中国人:こいつか! と思わせるのだが、いかんせん出番が少ない。

というぐあいなので、個性的な(しかし十分に予想の範囲内でステロタイプな--エンターテインメントなのだから悪いことではない)登場人物、次から次へと発生する事件と、謎、そう来るかと感嘆せざるを得ない展開、小説のおもしろさは満点なのだが、すべてが一歩離れたところで進行するため、読書への没入感はあるのだが、没我感が全然ない。そこが現代的な良さのような、空疎さのような。しかし、抜群におもしろいのだよ。

機龍警察 自爆条項 (上)(月村 了衛)

機龍警察 自爆条項 (下)(月村 了衛)

というわけで、今一つ、ぴんと来ないまま3巻目へ突入。

で、やっと溜飲が下がった。もしかしたら、評価のハードルがここまで来て大いに下がっただけかも知れないけれど。

これまでずっとうっとおしい役柄に過ぎなかったロシア人が主役となった途端に、過去-現在の流れが見事にはまった。テロリストのG線上のアリアと同工異曲の7つの習慣がうんざりするほど体言止めで繰り返されるのだが、趣向が凝らされているし、感傷よりは実行結果なので取ってつけた感があまりなく、スムーズに物語の流れにマッチする。しかも、物語にちゃんと光があって影がある。

7つの習慣 最優先事項―「人生の選択」と時間の原則(スティーブン・R. コヴィー/レベッカ・R. メリル/A.ロジャー メリル/Stephen R. Covey/Rebecca R. Merrill/A.Roger Merrill/宮崎 伸治)

主役のロシア人には、どうしてここまでひどい目に遭わなければならんのかという同情さえ感じる始末なので、主役としてそれなりの共感もあり、読書の没我感も味わえる。

物語の展開はさらに巧妙、しかも大好きな謎の中国人が、まさにキターというタイミングでここぞとばかりに大活躍し、しかも不意にいなくなる。(そのかわり、ますます傭兵が解説者の役回りに徹し始めるのだがそれはそれで味付けの変化の役割もあって悪くない)

というわけで、3巻の出来のよさは抜群だ。でも、それって1巻と2巻があってのことだな。

機龍警察 暗黒市場(月村 了衛)

というわけで、抜群におもしろい(退屈せずに時間をすり減らせるという意味)小説としてお勧めできるのだが、それには1巻から通して読んだ方が良いとは思う。しかし、文句なしなのは3巻だ。

が、途中の巻から読んでもわかるように、最初にモビールスーツを装着するときには、必ず同じような書き方で「説明しよう……」が入るのだが、さすがに3巻ではそこは読み飛ばしてしまった。


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