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日々の破片

著作一覧

2005-01-21

_ わたしこのごろ変なのよ

ちょっとしたことで、何かを思い出すことがある。

ほら、マドレーヌを食っただか、紅茶の匂いを嗅いだかでスワン家のことを思い出すようなもんだ(シュレンドルフかな? とまた新たな記憶が呼び出されたが)。

で、月があまりにでかくて丸いので、ニャースの唄じゃないが、子供のころ家にあって他に聞くものがなくて聴いたレコードのことを思い出した。

『ヤケッパチでナンセンスでフラッパー丸出しの歌』のことをだ。

1つは四谷文子の『わたし変なのよ』。変でしょ? うろ覚えに決まっているがこんな唄だ。

いつも出ていーる、お月さま、

丸くて白い、お月さま

(忘れたが、多分、ここにキモがあるはず。だから子供のおいらは実感がなく忘れたんだと思う)

わたし、このごろ、変なのよ、なんだかなんだか変なのよ

丸くて白くてでっかなお月さまに、怪しい心のトキメキを告白しまくる唄だ。と思うが、変だった。この部分のメロディーも思い出した。

ニイロツルチヨとかシンノウツルチヨとかも思い出したぞサムライニッポン。でもこれはメロディーは出てこないな。人を斬るのがサムライならば。

あきれたぼういずも思い出した。

地球の上に朝が来る。その裏側は夜だろう

このあと、でたらめざんまいの無礼講が始まるように記憶しているが、後はきれいさっぱり忘れてるな。

それから大島の火山に飛び込んで心中する二人の唄。

それから、カフェの女給の唄。てんで覚えてないが。でもどこかにカケラが記憶されているようだ。

放浪時代・アパアトの女たちと僕と (講談社文芸文庫)(竜胆寺 雄)

というようなのを思い出すと芋づるのように、龍膽寺雄のアパアトの女たちと僕とだの、小津安二郎の非常線の女だの、姉と弟のアパアト暮らしの映画(題は忘れた)だのが、次々と思い出される。ボオル紙の皇帝万歳。

アパアトの女たちと僕とのアパアトも、小津の映画のアパアトもすごーくモダンでお洒落でデラシネなんだが、小説と違って映画は残酷に視覚可能なものを残すから、それが畳敷きで漆喰壁の、そうか同潤会とかだね、という今となってはこれっぽっちもモダーンでもなければお洒落でもない貧乏くさい世界だったりすることがわかるんだが、それはそれ。実際にどう考えているかを表に出さず、見た目なんにも考えず、その日その時を足どり軽く世間をなめてふらふら生きるってのは、いかしている。それがモダーンな人間というものだ。っていうか、パーマネントバケーションを楽しむには、本当は終末がやって来るってことをびくびく意識しながらしかし知らぬ顔をしなきゃならないからね。綱渡りが綱渡り足りえるのは、落ちたら最期の綱の上としっかり認識しているからだ。地面の上に置いた綱の上を歩くのは簡単だ。そして本当に簡単なことなら、誰もそんなものなど知ったこっちゃない。

っていうか、同潤会アパート(アパアトじゃないね)も今は昔の物語か。

代官山食堂で飯食ってたのも既に20年前のことだからな。

考えなくても、戦前の日本の震災後からほんの10年弱というのはびっくりするくらい東京が東京たりえた時代だったのだ。

人間椅子を運送屋が運んできて、パノラマ島が建設されて、アパアトには風俗ねいちゃんが住んでいて、辻潤が尺八吹いて、浅草ではオペレッタ、ギロチン社のテロリストが上海と東京を行ったり来たり。洋館に住むハムレットが洋行からの帰路、客船の中で福助を見たり、緑の髪のロシア女が海からやってきたり、死人箱には15人セメント樽には手紙が一通水族館の槽の中には死なないタコ

でも、まあ、おれは今の時代でいいや。

_ モボ

おいらが子供の頃、考えてみれば、まだ戦前はベトナム戦争前でもなく第1〜4次中東戦争前でもましてや湾岸戦争前でもなかったわけだから、そんなに遠いわけじゃない。

「もう戦後じゃない」「ベトナム戦争中ですが何か?」

まだ、京成サブがガード下で呑んでいたりしたころなんだな。

っていうか、ウルトラマンの2回目のバルタン星人の時にカラーTVが家にやって来たのであった。

だから、おそ松くんを読んでエノケンやロッパって連中のことを知ったわけだし普通に生活していれば

おれは村中で1番モボだと言われた男

(ここは思い出せない)

ブカブカのセーラーのパンツ(ズボンだっけなぁ?)

(カフェの女給の唄を思い出しているうちに、こっちの唄のほうに行ってしまった。まるで旅行のようだ。確か、この田舎のモボは最後はカフェの女給にセクハラして追い出されるんじゃなかったっけな。っていうかむしろジョンボイトのカウボーイとかを無関係に想起してみたりテキサス無宿のクリントイーストウッドがはるばるニューヨークに出てきてタクシーに乗って「よお、運ちゃん、この街にブルーミングデールって店は何軒あるんだい?」、タクシーの運転手せせら笑って「1軒に決まってんだろ」、するとイーストウッドいきなりピストルを運転手の鼻先に突きつけて「ブルーミングデールの前を通るのはこれで8回目だぞ。テキサス育ちをなめんなよ」とか)

程度は耳にしても不思議じゃない。でも、私この頃変なのよってのはレコードでしか聞いたことはなかったな。

っていうか、京成サブをグーグルで検索しても5件しかヒットしないよ。失われちまったニッポンここにありだな。


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