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日々の破片

著作一覧

2013-03-13

_ ボウイ

ザ・ネクスト・デイ デラックス・エディション(完全生産限定盤)(デヴィッド・ボウイ)

まあ、買ってしまうことになるけど、ジャケットのセンスは最悪だよな(鋤田氏に金払いたくないとかそういう話だとまでは思わないけど、スティーブレイボーンへの金払いが悪くてツアーから逃げられたというような話を思い出したりもしないでもない)。

_ 人生の皮肉

それにしても、『スパコンで力任せに数独の難しい問題を作る』の追記には含蓄がある。

ただ、せっかくの含蓄あるお言葉なのに、エントリーの末尾ではなく最初に置いてあるので、ちょっとがっかり感もある。

_ 人体展覧会

二流小説家はとてもおもしろいメタ小説なのだが、読んでいて、どうも既視感にとらわれてしょうがなかった。

二流小説家(デイヴィッド ゴードン)

題名から想起されるイメージはバラードなのだが、まったく違う。

残虐行為展覧会 (1980年)(J.G.バラード)

(どうでも良いがこのての小栗虫太郎リスペクトな名前はなんなんだろう? いろいろなバリエーションを見かけるが実は同一人物なのかなぁ)

既視感があるのは、人体をばらばらに分解して再構成してオーナメントを構築するところの描写方法にある。レクター博士ではないし、もしかするとステロタイプなだけなのかも知れないけど、おれは粘液と血液がしたたるような気持ち悪いのは嫌いだから積極的にはそういう作品って読まないだけに不思議だ(つまり記憶にない)。

が、唐突に読んでいるさなかに頭の中でBGMが鳴り響いた。2人目の犠牲者がベッドの上に飾ってあるところかな? (ちょっと記憶はあいまいだ)

退屈なディストーションサウンドで、それに比べればルーリードのメタルマシーンミュージックのほうが一億倍魅力的だ。スロッピングリッスルかなぁ? でもそれにしては機材がリッチな音なのが不思議だ。

で、メロディーラインがほとんどないので特定するための手がかりがなくて、どうにも気持ちが悪かったのだが、何度か頭の中で再生しているうちにボーカルパート(というか語りだが)が入ってきて、ちょっとしゃがれた声でボウイの最もおれの好みではないアウトサイドだと気づいた。

アウトサイド(デヴィッド・ボウイ)

確かに、アウトサイドの中には、美術館の入り口に死体を分解して再構成した美術品を展示するというような詩があった。

趣味の悪い作品だったうえに、音楽もつまらないから、まったく忘れていたのだった。

が、記憶の引き出しというのはおもしろいなぁと思った。

というのを、ネクストデイを見て思い出した。


2013-03-12

_ 小波先生の統計学の教科書

これはありがたい。

統計の教科書を公開

文系向けで硬派、ガチンコだそうです。

本日のツッコミ(全1件) [ツッコミを入れる]

_ はら [これはスンバラシーですね。質が高い!]


2013-03-11

_ 30日でソフトウェアを開発できるかな?

アスキーの鈴木さんから頂いた本の中にSoftware in 30 Daysというスクラムのマネージャ向けの本がある。

マネージャ向けというのは僕の印象論ではなく、著者の言葉だ。『本書は、生き残りと競争力をソフトウェアに依存している組織のリーダーたちに向けて書いたものだ』。でもプレイングマネージャっているし、という前にもっと明確に『ソフトウェア開発を「しない」人に向けて書いたのは、本書がはじめてである』と書いている。さらに定義として『優れたソフトウェアを短期間・低コスト・高い予測可能性・低リスクで届けたい組織のCEO・経営者・シニアマネージャに向けて書いたものだ』としている。

まず、薄い本だ。全部で208ページだが、P.140以降は用語集とスクラムガイド、プレイブック、そして索引なので実質150ページ程度で、なるほど、この読解高速性というか即席性からしてすでに開発しない人のための本となっている。薄さにあわせて価格も抑え気味だ。

ところで、プレイブックってなんだろう? スクラムをプレイするための心構えや方法が書いてあるのだけど。シナリオっぽくもあるし、辞書をひくと脚本、計画、戦略と書いてあるから、読んで掴んだイメージ通りのものらしい。追記:アメフトらしい。

であれば、実は、この実質30ページ弱の付録C『エンタープライズアジリティを獲得するためのプレイブック』だけ読んで済ませても良いように思う。

そうではなく、まず説得されて納得したければ、本文を読めば良い。

すると、Software in 30 Daysというのは、30日で開発するのではなく、適切な区切りで(全然別の言い方をすれば)PDCAを回すと、ソフトウェアだと最大でも4週間程度が区切りとして良いという意味だということがわかる。

根拠はわからないが、30日のコストに対して2週間だと1.5倍のコストがかかり、1週間だと3倍にコストが膨らみ、30日を超えると情報が処理しきれなくなったりだれてしまうから問題外ということらしい。

根拠はわからないと書いたが、最初のほうでソフトウェア開発では経験主義が正しいとしているので、経験的にそうなるということだろう。

というわけで、本文はスクラムの概要を盛り込みながら、なぜ経験主義が正しく、そして経験に基づけばスクラムがソフトウェア開発には最適であるということが説明され、付録で用語を示し、ガイドでルールを覚え、プレイブックを参照してプランするという構成となっている。

妙に簡潔にまとまっていること、内容がこなれていることから、アジャイル15年の歴史で、ここまで洗練されたのだな、と考える。

というわけで、チームの進め方がまだアジャイルになっていなければ、とりあえずスクラム、手元にこの本、でやってみるのが良いのだろう。

Software in 30 Days スクラムによるアジャイルな組織変革"成功"ガイド(Ken Schwaber)

判型は技術書の定番のサイズより一回り小ぶりで、ページ数と価格も手ごろなので、読みやすい。

_ 分身

イメージフォーラムでベルトルッチの分身。とりあえずメモ。


2013-03-10

_ ミレニアム

先週から通勤中に読んでたミレニアムの1巻目を読了。えらくおもしろかった。

紙で400ページが1cmに満たないデバイスで読めるのはありがたい。

罠にはまって名誉毀損で有罪になった独立系雑誌の経済記者が、政治的な休暇中に引き受けることになった財閥の過去の事件の調査をするうちに明らかになるスウェーデンという国に残るナチズム(国家社会主義のほうではなく、優生主義のほう)や、弱者に対する性暴力のありようと、その事件にかかわってくることになる(主人公の観察によると)アスペルガー症候群らしき女性ハッカー(が、タイトルロールのドラゴンタトゥーの女)の社会との困難な格闘が書かれている。物語の基調となる主人公は経済記者のほうだが、人間的な魅力はハッカーのほうにあるし、タイトルロールなんだから(ただし翻訳用みたいだ)本来はそっちが主人公なのだろうが、意味がないと口をきかないので作家としては物語を語りにくいので副主人公っぽい位置においたのかもしれない。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下合本版) (ハヤカワ・ミステリ文庫)(スティーグ・ラーソン)

最後はまったく感が漂ってしょうがないけど、しょうがない。せっかく掃除したのになぁ。

_ メトライブビューイングのリゴレット

本編の演出の素晴らしさが特筆ものなのだが、一番、観ていて印象に残ったのは、衣装と舞台のデザイナーコンビに対する幕間のインタビュー(ルネフレミングによる)。

2人とも女性らしいのだが、ハンプティとダンプティのように仲良く手をつないで肩をさわったりしながら、まるで二人の共通の秘密を分け合うがごとくインタビューに答えるので妙に印象的だったのだ。


2013-03-09

_ 愛と誠

映画は特殊な表現作品で、書籍と異なり論理の組み立ては難しく、絵画と異なり時間の流れを持つため直観へ訴えることは難しく、純粋音楽と異なり抽象的な空間を表現することもできない。

そのため、受け手側の記憶による連想を利用して語られる物語に対して表現の上積みができるかが重要となる。

結果として、優れた映画作品は過去の映画のパターンを踏襲し、引用し、他の表現作品を援用する。(「映画的」という言葉が映画に対して褒め言葉となるのは、それが理由だ)。つまり、優れた映画は常に映画を含んだ映画として構成され、それは結果としてメタシネマとなる。あんなに愛し合ったのにや、ニューシネマパラダイスやニッケルオデオンが、実際にはそれほど優れた作品というわけでもないのに、にも関わらず実に秀でた作品となるのは、作品の仕掛けが他の映画を否応なく内包するからだ。

ということを前提として、愛と誠を観ると、なんと微妙な作品なことか。

舞台は1970年代ということが語られるが、作家の記憶から外れているためか、奇妙にねじまがって再構成され、しかも部分的に挟まるミュージカルが少しもミュージカルではなく、後半、バイオレンス映画に様変わりしてから急にいきいきとしてきて、クライマックスのACBくさいクラブから屋上の決闘までは息もつかせぬおもしろさとなる。特に、高原が投げた手裏剣が誠に降り注ぐ瞬間に愛が両手を広げてハリネズミになる一連のシーケンスは抜群だ。

最初は子供の画から始まり、ながやす巧をもっと子供向けアニメに変えたようなゲレンデのシーンがアニメで流れる。

新左翼文字の立て看文字で装飾された奇妙な街でたった一人の誠に対して向うから不良軍団がやって来て(この一群の人間が行進してやってくるとことろは、ウェストサイドストーリーやさかのぼることミッキールーニーが子役の頃のネイバーフッドものまでの映画っぽさがあり、見ているだけで楽しいのだが、作家自身が奇妙さを楽しみ過ぎているのか、あまりにもしつこく繰り返されるのでうんざりしてくる)乱闘が始まる。それを店の中から見つめる愛。止めに入る。

警官が乱入して来て町が炎上する。そこに巨大な目が現れることで、そこが西口で、新宿騒乱の再構成であることに気づく。しかし、気づいても何にもないところが空虚で、その空虚さが全体の基調となる。

共犯幻想 上―ワイド版(斎藤 次郎)

(西口の騒擾というとどうしても忘れられないのは共犯幻想だが、この題が吉本の援用だということすら過去のエピソードだ)

かくして、舞台は青葉台学園に移動する。ポケットから手を出すエピソードは記憶にある。傷も含め、原作を利用している。

特定のキーワードに反応する人々の物語でもある。月光仮面がスイッチの誠、メガネがスイッチ(ただしギャグ)の岩清水(「メガネは顔の一部です」)、悲しい女がスィッチの高原、おっさん(いや、これは原作とは違うと思うが、本当におっさんを使うばかばかしさは嫌いではない)がスィッチの権太(ゴンタを、ケンタと読み替えて、オオカミ少年ケンの主題歌で登場するが、高原に説明させるところではちゃんとゴンタと読んでいる)。(ポケットからの手のエピソード同様、ガム子を干し柿だか吊るし柿だかするのも記憶にあった。そういえば、一瞬、誠が鑑別所へ入れられるのだが、そこで入所者たちが雑巾を絞りながら大群で迫ってくるのは、同じ原作者の明日のジョーのエピソードの奇妙な引用だろう。そういった奇妙な引用はすさまじく多く、たぶん、全体の1/3程度くらいしかわからなかったと思うが、この作品が過去の作品の誤読による再構成(唐十郎方式)という手法で作られたのだろうと推測できるし、唐十郎方式という点からして1970年代っぽさであり、また唐十郎は花園神社での伝説的な紅テント公演だったり、西口(ただし地下広場ではなく公園)公演だったりすることから、引用の一部として組み込まれていると見て良いだろう)

予告編がミュージカル以外の何物でもないのでミュージカルだと思い込んでみていると、そういった事情でこれっぽっちもミュージカルではなく最初は驚いた。歌の最初の部分では口パクをするのに、そのあとは歌う様子すらなかったり口をぱくぱくさせる様子さえなくなるからだ。が、ガム子がふつうの女の子に戻る(が、歌はキャンディーズではない)歌ではちゃんとミュージカルになっていて、どういう演出かわからなくなる(が、おそらく、何も考えてなくて、こうすればおもしろいだろうとその場その場を決めているのだろう)。

ただ、作家の映画手法そのものは実に確かで、たとえば花園実業に転校したことを示す一連のシーケンス、あるいは廊下の向うからスケ番軍団が近づいてきてカメラは引きながらそれを映し、軍団が右手の教室に入り、しかしカメラはあいかわらず廊下を引くと、壁が崩れているため、教室の中を進む軍団を捕えるといった、空間移動を映画として実にきれいに切り取ったシーンは感動的だ。

突然、花園実業が新宿にあることがわかり、そのため花園というのが神社の名前で、すると学校の位置がおのずと決まり、そこがどういう場所か明示される(というのは、マンガを読んでいた小学生のころにはわからなかったので、ちょっとした発見だった)。そうそう、ソープは1970年代にはトルコだったのだな。

そういった背景の小物で、おおと思ったのは、酔っ払って道路にしゃがみこんでいるのを困ってみている子供の誠(1960年代ということになるだろう)のシーンで、住み込み女中の時給が90円と書いてあることで、すぐにそこまで安くはないだろうと思ったのだが、調べると実際にそんなもので、すると1960年代から1980年代で所得は倍増どころか10倍増(もちろん物価も上昇しているのだが、それと同時に物品は多様化するので、相対的に変化しないわけではなく、結局は10倍豊かになったと言えるので、そこから1990年代から2010年代に何も変わらないというのが、いかに恐ろしいことかと実感したりした)したという恐ろしさ。何が恐ろしいかというと、誠の家のように、その成長から取り残された場合の没落っぷりだ。(子供の頃(1960年代末)、ソーダアイスは10円しなかった。今、ガリガリ君ソーダ味はだいたい100円だ。同様に、1960年代末に時給が90円が同じ割合で上昇したとすると10倍で900円。田舎町の女中の時給とマックの最低の時給が同じ労働価値とすれば、時給90円は間違いではない。びっくりだよ)

特筆すべきは、主役の妻夫木聡で、このばかげた役を実にまじめに余裕たっぷりに説得力ありありで演じていることで、これは本当の役者だ。あまり映画を観て役者に感心することはないのだが、妻夫木聡には惚れた。

愛と誠 コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD](妻夫木聡)

(前半は最初興味しんしん星4つ、1/3観た時点でうんざり星2つ、花園実業に転校してから星4つに戻り、権太登場以降星5つで突っ走るという感じかな。とはいえ最後の最後、母親を許す(というか、脚本的には岩清水が愛の愛を評して母親の愛といったことからの怒涛の流れなのだろうけど)件以降はどうでも良くなって星3つで終わる)

こういう中途半端なミュージカルを見ると、黒沢清の(同じく中途半端なミュージカルの)ドレミファ娘の血は騒ぐは見ている最中は相当退屈したにも関わらず、実は傑作だったのだなとか、

ドレミファ娘の血は騒ぐ [DVD](洞口依子)

鈴木清順っておもしろい映画を作れる稀有な人なのだなとか

オペレッタ狸御殿 プレミアム・エディション [DVD](チャン・ツィイー)

(本物のミュージカル)

いろいろ他の映画の記憶が蘇り、結果的にメタシネマとなるのであった。


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